เข้าสู่ระบบ「随分と手の込んだ仕掛けだったな?」
「ええ。何年も前から準備していた――大事な儀式だったのですよ」大事な儀式、ね。
鼻で笑いたくなる言い草だ。「一体、何を呼ぼうとしたんだ?」
「そこまで知っているのですね」 「ああ、うちにも優秀な奴がいてね」ゼットの顔が脳裏をよぎる。
やっぱり、あの推測は当たってたか。「セイラム聖王国が神と呼ぶ存在……本当に神だと、あなたは思っているのですか?」
……なんだ? いきなり説教か?
「さぁな。神様なんて、そこら中にいるんじゃねぇか」
「……素晴らしい考え方ですね」あ、肯定されちまったよ。
こっちとしては軽口のつもりだったんだが。「別に神は唯一神のみではない。他にも多く存在するのです」
「へぇ~、それで?」俺は素早く印を結ぶ。 指先が震える暇もなく、覚えた形を次々と組み合わせていく。 霧の森の湿った空気が、掌の熱に反応してざわつくのがわかった。 霧の魔女の神話めいた言葉。 「掛けまくも畏き、常闇の淵に坐す荒御魂の神よ……」 言葉が霧に溶けていき、木々の間を這うように広がる。「千代に潜みて人の嘆きを糧とし、万代に囁きて血を欲したもう御身。 祓へ給へ、清め給へ――されど、その祓いは命を贄とし、 その清めは魂を削りて成すものなり」 紡ぐ言葉が終わるたびに、地面の震えが少しずつ大きくなっていくのがわかる。 霧が震え、葉がさざめき、遠くで怯えた獣が一声上げた。「ここに我が血を以て枷を解き、我が声を以て門を叩く。 枉れる鎖を断ち、虚無の扉を穿ち給へ」 神父の顔に、初めて——本物の驚きが走るのが見えた。 彼の口元がぴくりと動き、何かを否定するかのように手を上げる。 だが、いまさら言葉を重ねても遅い。 俺がここで出した符印と声は、もう後戻りできないところまで魔を呼んでいる。 ……ほら、祈れよ。お前の信じる神ってやつに。 「闇より這い出で、災厄を連れ、我が呼び声に応え給へ――」 やがて霧が濃密になり、視界が滲む。 光が吸われていくかのように、周囲の色が抜け落ちていく。 音が止み、静寂が辺りを包む。 それは、何かが来る合図。 霧の中心から黒い穴のような影がひとつ、ゆっくりと姿を現した。 形容し難い生物の輪郭が、吸い込むように周囲の霧を引き寄せる。 轟きながら、刃にも牙にも似た無数の口が重なり合う。 まるで、生きた深淵が這い出してくるようだ。 「来い、食らう者よ――」 俺の声
「随分と手の込んだ仕掛けだったな?」 「ええ。何年も前から準備していた――大事な儀式だったのですよ」 大事な儀式、ね。 鼻で笑いたくなる言い草だ。「一体、何を呼ぼうとしたんだ?」 「そこまで知っているのですね」 「ああ、うちにも優秀な奴がいてね」 ゼットの顔が脳裏をよぎる。 やっぱり、あの推測は当たってたか。「セイラム聖王国が神と呼ぶ存在……本当に神だと、あなたは思っているのですか?」 ……なんだ? いきなり説教か?「さぁな。神様なんて、そこら中にいるんじゃねぇか」 「……素晴らしい考え方ですね」 あ、肯定されちまったよ。 こっちとしては軽口のつもりだったんだが。「別に神は唯一神のみではない。他にも多く存在するのです」 「へぇ~、それで?」「それを信仰することを、聖王国は許さない……これは間違っていると思いませんか?」 「まぁ、言わんとすることはわかるぜ」 神父の言葉は妙に滑らかで、耳に入ると理屈が通っているようにも思える。 ……だからこそ、厄介なんだよな。「それなのに、他の信仰を異端と断罪し、裁くのです」 「まぁ、そうだな。よく聞く話だ」 「でしょう? だから、正すのです。我々の手で」 ……ふーん。 つまり、どんな犠牲も厭わないって話か。 考えるだけで、自分でも寒い気分になる。「なら、それで巻き込まれた罪のない人々はどうするんだ?」 問いに、神父は少しも躊躇せずに答えた。「必要な犠牲です」 その言葉は、まるで最も当然の理屈のように霧の空気に溶け込んだ。 俺は目の前の人物が
蛇の口から飛び散る毒液を、大きな木を盾にして身を隠す。 シュゥゥッと、草木が焼け焦げる音がする。 ……さて、周りの魔物が寄ってくる前に片をつけねぇと。 バジリスクの前足が振り下ろされ、大木が音を立ててへし折れた。 霧がその衝撃で渦を巻く。「俺な、この森だと調子いいんだよ。お前に負ける気がしねぇっ!」 地を蹴った瞬間、視界が一気に近づく。 間合いを詰め、まずは厄介な蛇の尾――尻尾を一振りで切り落とした。 しかし、たじろぎもせず、バジリスクの目が妖しく光った。 石化の眼差し。「やらしい目だな」 軽口をたたきながら、即座に距離を取り、地面に手を突く。 魔力を地面に流し込み、鋼鉄のように強化した土壁を目の前に立ち上げた。「いち、に、さん……」 光が壁を叩き、石化の気配が背筋をぞわぞわと這い上がる。 だが、盾の影がふっと軽くなった。 バジリスクの光が消えた証拠だ。「よん、ご、だっ!」 土の盾から飛び出し、一直線に首筋を狙う。 空中で体を捻り、遠心力を乗せた一撃を太い首に叩き込んだ。 切断とまではいかないが、バジリスクの首筋に深々と傷が走り、血飛沫が散った。 巨体がよろめき、呼吸は荒く、ほぼ瀕死だ。 ……あの血がやばいんだよな。 触れたら猛毒。 生きてても、死んでも厄介なのがこいつの特徴だ。 本当は一息に仕留めるつもりだったが、どうも俺の剣は鈍ったらしい。 鍔元にべっとりついた返り血を見て、苦笑する。 バジリスクは苦しげに頭を下げながらも、なおギラつく目でこちらを威嚇していた。 バジリスクと睨みあっていると、突如、横から巨大な影が横切った。
霧の森へ向かうと決まってからは、準備に忙しい。 タマ婆さんからはマジックポーションやら閃光玉やら、持てるだけ持たされた。 ……遠足に行くんじゃねぇんだぞ。 テッタからは、特製弁当。 ジョナスからは、ニヒルなスマイルをいただきました。 ……初めてのお使いか、俺は。「頼んだぞ」 課長が真剣な眼差しで送り出してくる。「守りは心配するな」 ガーの親分がニカッと笑った。 その顔に、妙な安心感があるのが悔しい。「忘れねぇからな……」 ナックが鼻水垂らしながら言う。 おいおい、葬式みたいにするな。「んじゃ、いってきま~す」 なんとも締まらないけど……まあ、俺らしいっちゃ、俺らしい。 ◇ ◆ ◇ 馬に跨り、一気に南へ駆け抜ける。 時間の猶予があるのかはわからない。 今は、とにかく急ぐだけだ。 ……もってくれよ、お馬ちゃん。 風を切って走る。 そういうと気持ちよく聞こえるが、なんとも心地の悪い風だ。 生温いというか、血生臭いというか……。 そんな感想を抱きながら、丘を駆け抜け南の村へ。 ここからは徒歩だ。 馬を繋がず、たてがみに手をやって語り掛ける。「危なくなったら、逃げるんだぞ」 馬が当たり前だろ、と言うように嘶いた。 腰のポーチからマジックポーションを取り出し、一口だけ含む。 喉を焼くような苦味が広がった瞬間、魔力感知を発動。「デカい魔力は無しっと」
「私も魔術師の端くれですが、街の危機と研究。どちらを取るべきかは、わかっているつもりです」 「ハ、ハクユウ殿……」 ウィザーズの職員が青ざめて声を失う。 さっきまで強情を張っていたのが嘘みたいだ。 ……さすがに、先生まで出てきちゃぁ、お手上げだろう。 俺は心の中で肩をすくめた。 これで研究バカ連中も、観念するしかない。 奥から、職員の一人がご丁寧に布にくるまれた鍵を差し出した。 課長はそれを受け取り、短く頷く。「よし。アル、戻るぞ」 課長の声が飛ぶ。 俺も頷いて踵を返そうとしたとき、後ろから呼び止められた。「アル、気をつけるんだよ」 ……おいおい先生。俺が行くこと前提みたいに言わないでくれ。 振り返れば、ハクユウがにこりと笑って送り出していた。 あの穏やかな笑顔が逆にプレッシャーだ。 ため息をひとつ、俺は課長とともにウィザーズギルドをあとにした。 ◇ ◆ ◇ 広場へ足早に戻ると、そこには食事を受け取る警備隊に混じって、ガーの親分の姿もあった。「おう、マルセル。どうだった?」 「ったく、最後まで強情に渡そうとしなかったぞ」 心底呆れた顔で、課長が肩をすくめる。「そりゃあな。あいつらはほんと、魔術にしか興味ねぇからな」 親分が鼻を鳴らした。 ……全く同感だ。 そう考えると、ゼットって元ウィザーズなのに柔軟な方だよな。 変人だけど、話が通じる分、ずいぶんマシに見える。「さて、どうするか?」 親分が、あぐらをかいて課長に尋ねる。
課長を探して、俺はウィザーズギルドへ向かっていた。 こうしている間にも、狂信者たちは悪魔召喚の儀式を着々と進行中かもしれない。 そう思うと、自然と足早になる。 ……ほんと、ロクなことしないよなアイツら。 中央通りから東に進めば、遠目でも目立つ塔が見えた。 空に突き刺さるようにそびえていて、窓は少なく、壁面はやたらに黒光り。 まさに「魔術師が住んでいます」って自己主張している建物。 こういうの、普通の人間からしたら威圧感バッチリなんだろうが……俺からすると、趣味悪い石細工にしか見えん。 入り口には、装飾過剰な鉄扉。 両脇に立つ魔術師崩れの見張りは、ローブに袖を通しただけの青白い男どもで、目つきだけは、やたらと鋭い。 中に入れば入ったで、怪しい薬草と古紙の匂いが鼻をつくんだろうな、と想像できる。 いかにも魔術師が居そうな塔だよな。 まぁ、居るんだけどさ。 俺は深く息を吐き、鉄扉の前に立った。 さて、課長は居るだろうか。 鉄扉を押して中に入ると、すぐに空気が変わった。 埃と古紙の匂いに湿った石の冷たさ。 いかにも魔術師が集まってますって雰囲気だ。 で、次の瞬間――「だから言ってるだろっ! 研究などと、そんな場合じゃない。すぐに移送しなければ大変なことになるとっ!」 廊下の奥から、課長の怒声が響いてきた。 ……ああ、なんかやってんなぁ。「しかし、これは貴重な研究対象に……」 「この研究馬鹿どもがっ! 街を死の都にしてぇのかっ!」 言葉の応酬が壁を震わせて届いてくる。 俺は柱の陰に立ち止まり、頭をかきながらため息をついた。 ……間違いない。ウィザーズどもは今日も通常営業だ。
ワイルドボアは無事退治。 なんで調査員が戦闘してるんだっての……。 とはいえ、ここでのんびり感傷に浸ってる場合じゃない。 獣の血の匂いは、別の魔物を呼び寄せる。 俺は袋からタマ婆さん印の消臭粉を取り出し、死骸にばさばさと振りかけた。「さてと。こいつらの宴会場になられても困るんでな」 鼻にツンとくる独特の臭い。 これでしばらくは持つはずだ。 だが、こいつは一体なんだ? 手袋越しに毛をつかむと、びっくりするほど固い。 毛がまるで小さな棘の集合体みたいだ。 皮膚を押してみる。 弾力は普通の獣のそれだ。 外見はワイルドボア、だが何かが違う。「次に会っ
戦意は十分。 獲物を狙う赤い目が、俺を睨む。 ……ま、降参なんてしないわな。 巨体は粘着玉に足をとられながらも、強引に突進してきた。 よろけてるくせに、速度だけは落ちていない。 完全にブレーキがぶっ壊れた車だ。「よっと、すれ違いざま──もらった!」 刃を横に薙ぐ。 カツンッ! 確かに当たったはずなのに──「くっ!」 手ごたえが石壁みたいに重い。 剣が弾かれ、腕に痺れが走った。 普通のワイルドボアなら、肉を裂く感触があるはず。 なのに、こいつは鎧でも着込んでんのか、ってくらい硬い。 ……おいおい、おかしいだろ。 土煙の中で向き直り、再び睨み合う。
胃がきゅっと縮む音が、自分で聞こえた気がした。 先頭の一匹が鼻を鳴らした瞬間、地面が揺れた。 ドドドッと一直線、丸太みたいな胴体が突っ込んでくる。「っとと!」 ほいっと身をひねって避ける。 掠める風圧で背中が熱くなる。 柵どころか、家一軒くらい簡単に持っていきそうな勢いだな、これ。 振り返る間もなく、二匹目が蹄を掻き鳴らす。 完全に突進モード。 ……匂いじゃねぇ。こいつら、こっちを見て狙ってやがる。「夜行性じゃなかったのかよっ!」 昼間からギラついた目で狙ってくるワイルドボアなんざ、教本に載せたら赤点食らうレベルのイレギュラーだ。 二匹目の突進も、ギリギリで
森に入ると、空気がひんやりと冷たくなった。 まだ昼前で陽は高いのに、枝葉が重なり合って光を遮っている。 木漏れ日がまだらに揺れて、なんだか犯人探しにぴったりの舞台装置ってやつだ。 足元にはさっきの蹄跡。 土が柔らかいせいで、くっきりと残っている。 だが、それも長くは続かない。 奥に進むにつれ、草木がやたらと生い茂ってきた。 足跡そのものは見えなくなったが──代わりに、踏み倒された草の方向が目印になっている。 葉が擦れた痕、枝が折れた角度。 でかい獣が突っ切った通り道ってのは、素人でもわかるほど派手だ。 俺は枝をかき分けながら苦笑する。「……まるで自分で『こっちで







